パラダイス・スレッドフィン

フィンが7本あるタイプ。長いものは体長の2倍以上になる。フィンは比較的たたんでいることが多い。
顔のアップ。カタクチイワシのような顔をしている。また、
眼(特に黒眼)は大きく、凸レンズ状をしている。
フィンが15本あるタイプ。さらにフィンが
細やかで長く、いつも広げている。
顔のアップ。ゴンドウクジラのような顔をしている。また、眼は小さく、ほとんど見えていないようである。

(はじめに)

 パラダイス・スレッドフィンは、東南アジアの沿岸から河川上流にかけて広く生息するツバメコノシロの仲間で、海産のものは日本の比較的暖かい海でも見られる。この魚の最大の特徴は、胸鰭下方の棘の著しく変化した長いひげ状のフィン(遊離棘)で、この長い華やかなフィンの魅力のために、希ではあるが観賞魚として入荷されている。しかし、この魚に対する評価は、「飼育が極めて難しい」とされていて、その評価のために飼育を躊躇する人も多いようである。しかし、決して易しくないとは言え、飼育は不可能ではないと言うのも飼育経験者の意見である。そこで、折角輸入されているこの魅力的な魚の生態および飼育方法を、これまで分かっている範囲で書き記すことで、一人でも多くの方がパラダイス・スレッドフィンの魅力を少しでも長く堪能できればなあと思います。

7フィンタイプ
 学名:Polynemus paradiseus
 分布:東南アジアの河川の上流から河口域

 本種は 2 本の長い棘と 5 本の短い棘の計 7 本のフィンがあるタイプで、 眼が大きく、凸レンズ状になっている。体色はやや青みがかった銀色をしている。行動は俊敏で、水槽の中を所狭しと泳ぎ回る。しかし、ある程度以上の水流のある水槽では、昼間は水流に逆らうようにほぼ一カ所を泳ぎ、消灯後は水槽中を泳ぎ回る。顔は比較的細長くて鋭利で、口はカタクチイワシのように体の下側で大きく開く。餌はかなりの魚食性を示し、消灯後に目視によりピンポイントに小魚にアタックをかけて補食する。本属の魚の多くは汽水域から沿岸域に生息することから、本種も汽水魚と考えられているが、実際はかなりの淡水域に生息しているらしく、飼育の際も若干の塩分( 10 分の 1 海水程度)があれば、飼育が可能のようである。また、純淡水でも飼育が可能とも思われるが、一端体調を崩すとで回復は望めないので、避けた方が無難なようである。

15フィンタイプ
 学名:Polynemus borneensis
 分布:東南アジアの河川の上流から河口域

 本種は 4 本の長い棘と約 11 本のの短い棘の計 15 本のフィンがあるタイプで、眼が小さく、ほとんど見えていないようである。体色は薄いピンクがかった銀色をしている。行動は活発で、7 フィンのタイプよりも水槽中を泳ぎ回る。顔は丸くてゴンドウクジラに似ており、口は体の下側で大きく開く。餌は主に冷凍赤虫を好んで食べるが、消灯後には小魚も捕食するようである。本種も汽水魚と考えられているが、実際は純淡水でも飼育が可能なようで、比較的長期間の飼育例もあるようである。ただし、やはり若干の塩分( 10 分の 1 海水程度)があった方が体調を崩した時のことを考えると安全なようである。

(飼育に際して)

 パラダイス・スレッドフィンは、とにかく泳ぎ回るというのが最大の特徴です。そのため、本種を飼育する場合は、たとえ小さい個体であっても広いスペース(最低でも 60 cm 水槽以上)が必要で、あまり小さい水槽やレイアウトが複雑すぎる場合は、上層部を苦しそうにぐるぐると泳ぎ回り、やがては衰弱してしまいます。また、水質の急変や古い水を嫌う傾向があるようなので、pHが中性付近の比較的新しい水を好みます。それと、水流のある環境を好むというのも、その体の華奢な作りの割には特徴的です。

 輸送状態のよい個体に当たれば比較的長期飼育が可能のようですが、狭い所に閉じこめられての長時間の輸送に極端に弱いため、残念ながらよい個体に巡り会う機会は多くはないようです。なお、本属の魚は種類によっては成長に伴い海に下る性質があるようなので、長期飼育に成功して大きくなった個体は若干の塩分を加えた方が調子がよいかも知れません。また、この魚はジャンプ力が非常に強く、せっかく安定した飼育ができたと思っても飛び出しによる死亡事故が多いようなので、ちょっとした隙間であってもしっかりとふさいでおく必要があります。もし、長期飼育に成功すれば、最大で 30 cm 近くになると思われますが、そのサイズでは、少なくとも 120 cm 水槽が必要でしょう。